都市伝説:今度は落とさないでね

 ある美しい夫婦に子どもが生まれた。
 その子は正真正銘二人の子どもであったが、その容貌は父母のどちらに似ることもなく、酷く醜かった。
 やがてその子のせいで夫婦の仲には亀裂が生じ、二人は、その元凶となったその子を亡き者にしようと考え始めた。
 夫婦は6歳になった我が子を旅行と偽り、湖まで連れて行く。喜ぶ子どもを連れ、一行はフェリーに乗り込んだ。
 不意に尿意を訴えたわが子に、湖に向かって用を足すようにいうと、夫婦は後ろから、用を足そうとしている子どもの背中を押して、湖へと沈めてしまう。

 数年後、夫婦は再び子どもを授かった。
 その子の容貌は前の子と違い夫婦に似ていて、とても美しかった。
 その子が6歳になったある日、急に湖に行きたいと訴えた。
 夫婦は子どもが望むままに湖へと向かう。
 そこは数年前に最初の子を葬った湖だった。
 フェリーの上で尿意を訴える子どもに夫婦は湖へ向かい用を足すように言われる。
 両親に言われたとおりに湖へ向かう子ども。その時、その子が不意に呟いた。
「今度は落とさないでね」
 その顔は――――6年前に死んだ子どもの顔だった。

 この他にも、同様の噂として、未婚のカップルに子どもができてしまい、困った挙句に殺してしまう。
 その後結婚して生まれた子どもが、というものもあり、少し設定は違うが、最終的なオチは同様です。

 この話のルーツを辿れば、古くにまでさかのぼることができます。

 金品を奪うため、旅の僧を殺した男に子が生まれる。
 ある晩外に出た子どもが不意に父親に向かい、こう言うのだった。
「お前が俺を殺したのもこんな晩だったな」と。

 江戸の頃には、貧困のために子どもを山に置いてくるという噂も少なくありませんでした。
 それがやがて現在に至ると、いわゆる「出来ちゃった」ために子を捨てるという形に変わっているのがわかります。
 この話ひとつとっても、噂が社会の在り様を克明に表しているものだということが理解できるのではないでしょうか。